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2015年3月

縁覚の経典2~三祖『信心銘』~

浮世絵時代の旅はさぞかし楽しかったことだろう。

広重ブルーと呼ばれるベロ藍(あい)の空。
見る場所によって千変万化する北斎の富士。

写真や映像のない時代は想像力がすべてだ。 旅人の気分は現代よりもずっと浮き立っていたに違いない。 ましてや、それ以前となると文字や口伝えだけだったから、その時代の旅は、もう、ほとんど冒険と言ってもよかっただろう。 マルコ・ポーロの『東方見聞録』で黄金の国と紹介されたジパングは西洋人の心にどんな風に映ったのだろうか。

われわれ禅者の目指す“涅槃”へと続く道もまた冒険と言えるのかもしれない。 これもまさしく文字と口伝えだけの世界なのだから。

この冒険の顛末(てんまつ)を最も簡潔に記した文献を探すとしたら、三祖の『信心銘』に突き当たるのではないだろうか。

― 至道無難 ―
~ 至上の道をゆくことには何も難しいことを求められてはいない ~


この力強いメッセージで始まる146句584文字の道標詩は、私達の想像力をいやが上にもかき立てる。

― 止動無動 動止無止 ―
~ 止まってみえるものには動くことなき動きがあり、動いてみえるものも止まることなく止まっている ~


― 宗非促延 一念万年 ―
~ 宗門は急かされたり焦らされたりする時間の中にはない、ただ一念を懐くほどのわずかな瞬間に万年の時間がある ~


こんな正気の沙汰とは思えないめくるめく世界が次々と展開されてくる。

しかしながら三祖の詩の作り出すグルーヴに乗ってしまえば、われわれは冒険の先に待ち受けている難所という難所のすべてを乗り越えるための知識がバッチリ身についてしまう。 そんなありがたい仕掛けになっているのだ。

これから“涅槃”への冒険に乗り出すなら、物資が不足して困窮したり、怪我をして何日も寝込んだり、川で溺れてしまうようなこともあるだろう。

きっと、そんなときには三祖の助言がどこからともなく心に響いてくるに違いない。 われわれは、これからまさしく三祖の冒険を追体験するのだ。

つまり、『信心銘』は三祖の冒険奇譚(きたん)であり、宝の在処(ありか)を記した地図でもある。 だから私は、縁覚道のはじめに『信心銘』を暗記するほど読み込んでおいた。

これはその頃に苦労して訳したものである。それもまた非常によい勉強になったものだ。

よかったら使ってくれたまえ。

ダウンロードボタン 布施仁悟訳・三祖『信心銘』
B5の紙に印刷できるPDFファイル(282KB)。全18ページ。
著・布施仁悟
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